忘れもしないあの名前:第8章・第9章


どうも、

水曜日分です。

いよいよ明日完結!

・・と言ってみたり。


8:火星観光

とりあえず私たちはメイジャートン駅までやってきた。

「秋水さん、どんなところに行きたいですか?」

「どこでもいいですけど、春瀬さんのお気に入りの場所とか、行ってみたいです・・・」

「わかりました。ちょっと遠いですけど、時間もあることですし、ゆっくり行きましょう。」

「はい」

そういうと、私は券売機で切符を買い、彼女に手渡した。

「"サミルト行き"・・・サミルトってどんなところですか?」

切符の表示を見たようだ。

「まぁ、いいところですよ」

そんなことを言っているうちにホームに列車が進入してくるのが見えた。

「あ、秋水さん、列車来ちゃいましたから急ぎましょう」

といって急いで列車に乗った。

「本日は火星急行線をご利用頂きありがとうございます・・この列車はコレイス、ラミルオ、ラトゥール、シアミリ、サミルトに停車いたします・・・」

「サミルトって終点なんですか?」

「ああ、そうです。海の近くなんですよ。」

「海ですか。久しぶりに見ます・・・最後に見たのは15歳の時だったかな・・・」

冥王星の海よりも綺麗ですよ。大昔の未熟なテラフォーミングで作った物で、半分くらいは地球の水を持ってきた物らしいですから、より地球に近いそうです」

「へぇ〜。本物の夕焼けも見られるって事ですね?」

「ええ、もちろん。ここに住んでたときは当たり前の事だと思っていましたけど、いざ夕焼けのない星へ行くことになった時は、なんだか寂しかったですね・・本物を知っていると、人工のは何か違う気がして・・・」



そうして、私たちは列車に揺られながら時を過ごした。



「まもなく〜終点〜サミルト駅に到着いたします〜忘れ物ございませんようご注意下さい〜」

車内アナウンスが流れる。

「秋水さん、行きましょう」



そういって私たちは列車を降りると駅から続く一本道を歩いた。

しばらくして海が見えた。

「あ〜、これが火星の海かぁ、綺麗ねぇ」

そういうと秋水さんは砂浜に座った。

「昔は父がここまでよく連れてきてくれたんですよ。泳ぎもここで教わったし、

父も宇宙軍勤務だったので、ここで父に宇宙にはまだ分からないことがたくさんあると聞かされて、連合宇宙軍に入ろうと決めたんですよ。」

「ふ〜ん、ってことは夢を決めた海岸って事ですか。」

「まぁ、そういうことですね。」

そんなこんなで海岸を歩き回った後、近くの水族館を回り、

最後に小高い丘に私たちは行った。

私たちが丘を登り切った頃、ちょうど日は海へ落ち始めていた。

秋水さんは声も出さずに海に見とれていた。



私が秋水さんの顔をさっとのぞくと、秋水さんははっと我に返ったようにして

「これが本物の夕焼け・・・すばらしいですね・・・」



そうこうしてから私たちは家へ戻った。



しばしの歓談の後、私たちは眠りについた。



9:帰り道で・・・

しばしの火星での休暇も終わり、私と秋水さんはマーズエクスプレスで冥王星への帰路についていた。

そんなとき、秋水さんが私に話しかけてきた。

「あの・・・実を言うと、私、あなたのこと憎んでいたの・・・」

「えっ・・そうですよね・・私はひどいことをした人ですからね・・」

すっかり心を許していたが、私は憎まれても仕方ないのだ、

彼女の父を見殺しにした悪人なのだ。

「でも今は違います。あなたが倒れていたのを助けたとき、早川先生からあなたが父の事で悩んでいたのを聞きました。それを聞いたら、もうあなたのことが憎くなくなったわ。

自分の気持ちも落ち着いたの。人を憎まないと落ち着けないなんて、弱い女ね、私・・」

それを聞いて、私も何か落ち着いた気がした。

そのあと、私は秋水さんに父と母の話をした。

「そう・・・じゃぁ、運命なのかな。」

「え?」

「私も母を小さいときに亡くしているの。母も研究者で、父が言うには核融合の実験をしていたらしいのだけど、そのとき炉が暴走して、炉の近くにいた母は即死だったらしいわ。」

「そうですか・・・」

「もう私は失う物もないわ・・・」

秋水さんがマーズエクスプレスの高い天井を見上げながら言う。



私は決意した。

秋水さんの「失えない失う物」になろうと。

「私で、よければ、その、失う物・・失えない、失う物に、なってもいいのですが・・」

秋水さんははっとしながら、

「私はあなたを憎んでいた女よ?それでもいいの?」

「私は憎まれても仕方ない事をしたのです。せめて、償わせて下さい・・・

それに、あなたの、ことを、守ってあげたいな、と、思って・・・」



秋水さんはマーズエクスプレスの窓の方を向きながら、

「あなたって、悪い男ね・・人がプロポーズしようと思っていたら先にプロポーズしてくるなんて・・・」

私は秋水さんの目から何かがこぼれるのを

見逃さなかった。