忘れないうちに

書いておこうと。
科学な時事ネタです。
高速増殖炉もんじゅで警報機の誤作動があったそうな。(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080327-00000033-jij-soci
今回の警報機の誤作動は「1次系配管」の警報機だそうです。

核分裂反応

核分裂反応というのは、実用的に使用されている発電用原子炉などの中で起こっている反応です。
ここでは発電用原子炉に使われるウランで説明します。
何らかの原因で中性子がウランの原子に当たると、そのときにその衝突されたウランの原子は分裂したり、物質の種類が変化したりします。
さらに、分裂した場合は熱と中性子が出ます。(種類の変化で中性子が出ることもあります)
そして、その中性子がさらに他のウランの原子に当たって・・・を繰り返します。
ややこしく考えずに、おはじきをイメージしてもらえると非常にわかりやすいかと思います。
(余談ですが、ドラえもんの道具に「原子おはじき」という道具があります)
この分裂を「核分裂反応」といい、分裂の連鎖が続くことをを「臨界」といいます。
この臨界を続けることによって熱を持続的に発生させて蒸気を作り、発電します。

高速増殖炉とは?

普通の発電用原子炉は、ウランを使って、
核分裂反応を起こし、そのときに出る熱エネルギーを使って発電します。
しかし反応を起こしやすいウラン235は自然界にはあまり存在せず、
99%以上のウランは核分裂反応を起こしにくいウラン238という物質として存在します。
核分裂反応を起こしにくいと言うことはつまり「使えない燃料」といった感じなのです。
なので普通の原子炉や原子爆弾などではもっと核分裂しやすいウラン235の濃度を上げます。
(兵器用ならウラン235が90%程度に、原子力発電用なら数%に濃縮します)
このウラン235の濃度が上がったウランを「濃縮ウラン」と言います。
さて、もんじゅのような高速増殖炉というのは、
核分裂反応の時に出る中性子を利用して効率的にウラン238から燃料になるプルトニウム239を作る目的があります。
わかりやすく言うならば、
核分裂反応を利用して、使えない燃料を使える燃料に変えるといったところでしょうか。
仕組みとしては炉内で核分裂を起こして、そのときに出る中性子ウラン238に当てることによって、
プルトニウム239に変化させるわけです。
この変化を起こすときにはエネルギーの高い、いわば元気のいい中性子を使います。
この中性子を「高速中性子」といい、この中性子核分裂反応で発生します。
しかしこの高速中性子ウラン235核分裂を誘発させるのには不向きなので、
原子力発電のような核分裂メインの原子炉では
水や黒鉛などを通過させて勢いを弱めます。
この勢いを弱めるのに使う物を「減速材」と言います。
しかし、さっきも書いたように物質の変換に使うには高速中性子の方が向いているので、
高速増殖炉には減速材を使用しません。
ここが普通の原子炉と高速増殖炉の大きな違いといえるでしょう。
しかし、原子炉の熱を伝えるためには、
橋渡し役ともいえる物質が必要です。
車のエンジンなんかは冷やすために水を使いますよね。
これと同じ原理で発電用原子炉では水を使い、
原子炉で発生した熱を運んでいます。
このとき水を使うと、水は減速材の役割も果たすので、
一石二鳥というわけです。
しかし、高速増殖炉では減速材はかえって邪魔になります。
というわけで、高速増殖炉では原子炉から熱を運び出す時に、
減速材の役割のない金属ナトリウムを使用しています。
しかし、金属ナトリウムは酸化しやすく、
水と激しく反応して燃えるなど(私も実験したことがあります)、
非常に扱いにくく、高度な技術が要求されます。
95年にはもんじゅでこのナトリウムが漏れて火災が発生した事を知っている方も多いでしょう。

1次系配管とは?

1次系配管というのは、
原子炉で発生した熱を外部に伝える配管、とでも言いましょうか。
一応超簡単にした図を用意しました(実際はこれよりかなり複雑です)
http://www.asahi-net.or.jp/~vi2t-szk/monjyu.png
この図に書いてあるとおり、1次系配管は原子炉内に入っているので、
1次系配管の中のナトリウムは放射能を帯びています。
勘の鋭い方はもうおわかりでしょうが、
つまり1次系配管のナトリウムが漏れることは放射性物質が外部へ流れ出す可能性があります。
一応、ナトリウムが反応しないように窒素で配管の周辺を満たすなど、
安全策は講じてあるそうですが、
いかに1次系配管のナトリウム漏れが大変なことであるかおわかりいただけたと思います。
ちなみに、95年の事故では1次系配管から熱を受け取って運ぶ、
原子炉内へは入っていない2次系配管のナトリウム漏れだったので、
放射性物質が漏れる危険性は低かったわけです。

私見

このように、1次系配管の警報機の誤作動は、
今回は間違って警報を発したからよかったものの、
逆に警報を発するべき時に発しないような誤作動(故障)を
したときのことを考えると危ないでしょう。
ですから、もっと信頼性を高めてほしいなと私は思いました。
・・・と、手厳しい書き方をしましたが、
だからといって核分裂を利用する原子力発電を利用せずに、
その他の方法でその発電分を埋めるのは難しいでしょう。
それこそ火力は今更そんなに増やせませんし、
まだ太陽光、風力といったクリーンエネルギーも、
不安定であるし土地も必要と、
完全に原子力を代替するには未熟だと思います。
暴走が原理的に起こらないといった観点から見て安全だろうと言われている
核融合炉もまだ実験初歩の段階ですし、
今のところはできる限りクリーンエネルギーを利用しながら、
原子力も信頼性の向上に努めて共存していく事が必要なのではないかと思います。
もっとも、今の便利さを捨てるなら別ですが。
話は少し変わって、
この話を書こうと思ったのはネタがないのも理由なのですが、
科学技術全盛の時代にこういう事に関して少しも知らないというのは
危険ではないかと私は思うので、いい機会だと思い書きました。
科学技術は基本的に人々の生活を豊かにしてきましたが、
一歩間違うと我々危険に陥れる、二面性もあります。
工業技術の粋である車が発明されてから、
交通事故は多くなったであろう事は誰でもわかるでしょう。
このように、科学技術は使い方を誤ったりしてしまうと
大変な事が起こります。
別に原理がわからなくたっていいと私は思います。
ですが、この科学技術にはこんなメリットがある、しかしこれこれこういう事が起こりうるというリスクの両方を、
理解できるだけの知識、あるいは理解しようとする努力はこれからの時代、必要でしょう。


最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。
最後に、これを書くに当たりWikipediaを大いに参考にしているので、間違いもあるかと思います。
その際は是非ご指摘をいただければ幸いです。