忘れもしないあの名前:第10章・第11章


最後の2章です。

バックナンバーはSF小説カテゴリまたは本家で。(本家はまだ途中までのUPですが)






10章:カーシオン再び



そしてそれから20年。

私は今、カーシオンの上に立っている。

人類は移住の場を太陽系の外へと移していたが、カーシオンは20年前のあの事件以来

全く開発されていない。



しかし、押し寄せる人口増加の波には逆らえず、ついに連合議会がカーシオン開発法案を可決した。



そして、先遣調査隊として私の中隊が派遣されることとなった。

自分が人を見殺しにした惑星を自ら調査するなど、全く皮肉なことである。



「カーシオン、か・・・」

私はそういいながらカーシオンの土を踏みしめている。



あたりを見回してもなにもない。

太陽系の小惑星にこんな所はよほどの理由でもない限り、存在しないだろう。



そうやってあたりを見回していると、手元の端末に、ベータ崩壊が発生していることが表示されていた。

あのときと同じだ。

私は副隊長に

「すまんが、君たちは艦から私をバックアップしてくれ。これからあの事故現場に向かう。」

「分かりました。春瀬中尉。」

そういうと、副隊長以下80名は艦へ戻り、

カーシオンにいるのは私だけとなった。



「ついに来たか。秋水中尉、あなたの意志を私は継ぎます。」

そうつぶやいて、私はベータ崩壊源へ歩き出した。





そこで私が目にした物は、巨大な遺跡だった。

「なんだ、これ、巨大な遺跡じゃないか・・・」

そういいつつ私は奥へ進んでいった。





しばらく歩くと、大きな神殿のような場所が現れた。

電子頭脳の跡であろうか、大きなブロック状の物体がその中心に据えてある。



しばらく眺めていると、後ろから足音がした。

私は振り返ると即座にレーザー銃を構えた。



が、しかしそこにいたのはあの人だった。

「ようやく来てくれたね、春瀬君」



11章:20年ぶりの「再会」



「秋水中尉!」私は驚いた。

秋水中尉に駆け寄るがそこに秋水中尉はいなかった。

正確には生身の中尉はいなかった。

そこにあったのは三次元投影の映像だった。



「君を悲しませてしまってすまなかった。」

「なぜあのとき返事をくれなかったのですか!私は・・・私は・・」

「すまない。あのとき私はカーシオンの原住民に捕まってしまったのだよ」

「え?カーシオン原住民?」

「そうだ。私もしばらくしてから気付いたのだが、この小惑星小惑星ではない。

ベータ崩壊を利用した宇宙船だ」

「宇宙船?」

「どうやらここの原住民は遠い銀河から航行してきたらしいが、太陽系にさしかかったときにエンジントラブルを起こし、そのまま太陽の重力に逆らえずに太陽系の小惑星になったらしい。そして私は細々と暮らしていたその原住民の末裔に捕まったというわけだ。

そして機器類はすべて没収されてしまった。」

「そうだったのですか・・で、生身の中尉はどこなんです?」

「残念だが、生身の私はもう存在しないのだよ、春瀬君」

「私は脳のみを残し他を仮想世界の物とする実験の試験に使われてしまった。

幸い、実験は成功し、こうして君と話すことは出来るのだが、生身はとうの昔に消し去られてしまった。

捕虜だから仕方ないのだがね。」

「と、いうことはもうここから動けないのですか?」

「そうだ。私はこの星が滅びるまでここに居続け、星の破滅を見届ける事になる。」





少しの沈黙の後、私は中尉に様々なことを話した。

優子さんと結婚したこと、他の惑星は開拓されていること・・・



最後に中尉は

「もう私は優子を幸せにする事も何も出来ない。どうか君が私の分まで娘を幸せにしてくれ」

と言った。

私は笑顔で

「もちろん、彼女は私が幸せにします。約束します。」

それを聞くと中尉も笑顔になった。



「さあ、君は艦へ帰りなさい。君にはまだ守らなければならない人がいる」

そういうと中尉は私に向かって何かを投げたかと思うと、私は光に包まれた。



次の瞬間、私は艦にいた。



「艦長!どうしたのですか!」



私は事の顛末を話した。

そして

「総員、カーシオンに敬礼!」

そう命じた後、

私たちは冥王星へと帰還した。



連合議会で私はカーシオンがどういう星であるか説明し、

今後も開発は保留、星の一生を終えるまで見守るという決議がなされた。







宇宙暦7063年7月7日。



今日は宇宙七夕の日だ。

私は天の川が輝く空を見上げる。

「ありがとう、そして優子さんを守ります。秋水中尉。」

そうつぶやくと、私は空に向かって敬礼をするのだった。



〜終〜







作者あとがき。

最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

ここでの初回掲載が07/05/02ですから、

およそ3ヶ月半ですね・・・

途中、かなり間が開いてしまいましたが、

何とか完結させることが出来ました。

また、本家の「スーさん的SF小説・設定集」で

本編に出なかった細かい設定が書いてあります。

それと、本家にUPしてある短編のいくつかとは裏設定で関連が

ありますので、そちらも是非チェックしていただければ幸いです。



このような稚拙な文章、最後まで目を通していただき、本当にありがとうございました。

07/08/16 スー