「忘れもしないあの名前」第5章:「特急マーズエクスプレス」


間が持たないので投下。



SF小説「忘れもしないあの名前」第5章:「特急マーズエクスプレス」

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「本日は火星鉄道をご利用いただきありがとうございます。特急マーズエクスプレスは

宇宙暦7042年11月15日午後3時20分に火星中央駅に停車する予定でございます・・・」



車内アナウンスと車内販売のワゴン以外ほとんど音はしない。

火星出身の連合軍の奴らは私が軍病院に入院しているうちにもう火星へ帰った様である。

みな、私と同じように何年も実家に帰っていない人が多いのだ。

たまには実家に帰りたいというのは誰もが持つ考えなのだろう。

そんな事を考えていると、

「ねえ、春瀬さん、火星ってどんな所?」

「う〜ん、月の次の人間の植民地だけあって、古い町並みがあるくらいですかね。

まあ最後に見たのが3年も前ですからあてになりませんけど。」


そんな他愛もない会話をしているうちに、数時間が経った。

私たちは食堂車へ行き、夕食を食べた後、

1年前に増結されたばかりの温泉車へ行き、疲れをとったあと

しばらく寝ることにした。

秋水さんに会った頃から、不眠症の症状は出なくなった。





「皆様、おはようございます。当マーズエクスプレス54号はただいま木星周辺を・・」

朝だ。

朝と言っても宇宙空間であるからマーズエクスプレスの人工景色だが。

私は腕時計をちらりと見て時計を確認した後、秋水さんの方を見た。

まだ起きていないようだ。

まだ火星までは7時間ほどあるので、起こさないでおいた。

私は窓にかかっている人工景色カーテンを開け、外を眺めた。

3年前に比べて周辺衛星の開発が進んでいるように見えた。

流石は木星連邦だ。

ついでに実家に連絡を入れ、秋水さんも行くことを伝えた。



そうこうしているうちに、

「春瀬様、秋水様、朝食のご用意が出来ました。15号車レストラン「トゥルースター」までお越しください。」

と、席についているホログラム内線に連絡が入ったので、

私は秋水さんを起こして15号車まで歩いて行った。

「春瀬さん、マーズエクスプレスって豪華なのね。」

秋水さんがそういうので説明した。

「マーズエクプレスは連合軍の火星出身者向けの列車で、なかなか帰る機会のない軍の出身者にくつろいでもらおうという軍の方針だそうです。ですから軍の関係者は安く切符が買えるのですよ。まあそもそもこの時期の帰省の需要と言えば軍くらいなものですから、

元々そんなに高いもんじゃないんですけどね。しかも火星出身者の帰省が終わった頃には

木星周辺出身者のために冥王星木星衛星間を走ってたりして、ほぼ休みなく走っているそうです。」

「へぇ、そうなんですか・・・」

そんな話をしていると程なくしてレストラン「トゥルースター」に着いた。

もちろん、高級列車だけあって食材は火星産を使用、一流ホテル並みのコックがそろっている。

名前を伝えると案内され、席に着くと、いわゆる「マーズ・ブレックファースト」が運ばれてきた。



「火星の料理っておいしいのね。きっと気候が良いおかげね。」

「ああ、私は小さい頃はこれが当たり前だと思っていましたけど、軍に入って、初めて派遣された木星の料理を食べて、火星の料理のありがたさが分かりましたよ。」

そういいながら私は笑った。

そんなこんなで食事を終えると、

私たちは車内を歩き回った。



最新鋭の高級列車だけあってなんでもある。

植物園、水族館、プールにスポーツジム。

ちなみに通信端末は全席完備なので、自分の席から宇宙ネットワークにアクセスできる。



程なくして席に戻り、私は火星の資料を秋水さんに見せていた。

そうしているうちに、車内アナウンスがあと1時間で火星に到着する事を知らせてくれた。



私は秋水さんを誘い、1両目の展望フロアへと行った。

「ほら、あれが火星です。」

「わあ・・・綺麗ね・・・」

秋水さんは窓に張り付くようにして、火星の方を見ている。

「そうですか。それは良かった。真ん中のあたりが初代首都のレースター市で、右下に見えるのが今の首都のアールテン市。火星中央駅はまだ見えないけどレースター市とアールテン市の中間あたりにあるんですよ。」

「地図である程度知っていたけれど、大きいんですね、火星の街って。春瀬さんの実家はどの辺にあるんですか?」

「ああ、私の実家はアールテンの隣のメイジャートン市にあります。割とのんびりしたところですけど、アールテンに近くて便利ですよ。もともと私の家はレースターが首都の時からメイジャートンに住んでいたので、結果的に便利になったのですが・・」

「へぇ、楽しみですわ。」

「じゃあそろそろ荷物をまとめましょうか。」

「そうですね。」



私たちは席に戻り、荷物をまとめた。

仕度が終わるとちょうど良いタイミングで車内アナウンスが流れた。



列車は少しも揺れることなく火星中央駅に進入していった。

私たちは列車のドアが開くと同時に、ホームに降り立った。







読んで下さってる皆様、出来るだけ早く完結させるので

飽きないでねぇ〜っ;