謎の大企業

また一つネタが浮かんだので書いてみました。


俺は夏原二郎、川坂新聞社の記者だ。
俺はいつもスクープを狙い、他の新聞に先駆けて情報を入手することに命を懸けていると言っても良いだろう。
そんなある日、いつものようにスクープはないかと探していると、
俺の携帯が鳴った。
非通知だったが、とりあえず電話に出た。
「突然のお電話申し訳ありません、新名間野工業の清川と申します。」
相手は初めて聞く声だったが、相手が名乗った会社名は知っていた。
新名間野工業と言えば、世界の最先端を行く技術を保有し、
通信、原子力などありとあらゆる分野でかなりのシェアを占めている大企業だ。
だが、この大企業の不思議なところは、昔から、社員の募集をしていない。
しかし終業時間になるとビルからは人が出てくる。
そのビルから出てくる人に「どのようにこの社に入ったのですか」と聞いても、
答えは決まって「契約上お答えできません」だった。
新製品の発表もネットワーク上での公開のみのシンプルなもので秘密らしきものは漏れてこない。
そんな会社だったから、名前を知らない方が珍しい。
「新名間野工業の方でしたか。川坂新聞の夏原ですが何かございましたか?」
「はい、あなた様に本社に取材に来ていただきたいのです」
スクープハンターにとってこれ程棚からぼた餅な事が有って良いのだろうか。
「はい、ぜひ喜んで行かせていただきます」
俺は新名間野工業へ急いだ。


受付に名前を告げると、社長室に通された。
「失礼します。川坂新聞の夏原と申します」
すると社長らしき人物が立ち上がってこちらを向いた。
「これはこれは、良く来て下さった。社長の間野です。」
「本日お呼びいただいたのはなぜですか?」
俺が問いかけると、間野社長は深くうなずくようにしてから、
「他でもない、この会社の長年の謎の答えを知ってもらうためだ」
「と、いいますと、なぜ社員を採用しないのに社員が居続けるのかということですか」
「その通り。ではその質問に答えていくとしよう。とりあえず社内を見て回ろうか」
と言うと、社長は廊下へと私を手招きし、進んでいった。
建物は近代的な作りの中にも旧世紀的装飾が施され、独特の雰囲気を醸し出していた。
そうこうしているうちに、一つの部屋に着いた。
その部屋の扉の横には「演算ブロックA-1」と書いてある。
社長は「これが答えだよ、夏原君」と言い、扉を開けた。


その部屋には大量のケーブルが生えたヘルメットをつけた大勢の社員とおぼしき人々がいた。
「一体これはどういうシステムなのですか?今ひとつよく分かりません。」
俺がそういうと、
「計算を直接取り出しているのだよ、少し改造してね、頭の部分を。」
俺は驚くと同時に良いネタになると思った。明日の朝刊の一面は「新名間野工業、非人道的搾取が発覚」だ。
・・・と思ったが、社長はさらに話を続けた。
「と言っても、これ一つ一つはアンドロイドなのです。別に人型にしなくても人工知能アルゴリズムの演算は可能ですが、それの演算ユニットの仕様を知られてしまっては、我々の最先端技術はすぐに他社に知れ渡ってしまいます。そこで我が社は、演算ユニットをアンドロイドに、つまり人に擬態させたのです。」
「なるほど、それで採用を行って来なかったわけですね。では、生身の社員はどのくらいいるのですか」
「私一人だ」俺は少し驚いた。
「ではこのアンドロイドはどなたが」
「創業者である私の祖父が1台目を設計、製造した。今度はその1台目が新たな設計をして2台目を作り、といった方法で増やしてきたのだ。」
「なるほど、ですが今日はなぜこの秘密を公開することにしたのですか?」
「それはだね、生身の人間を新たに採用することに決めたからだよ」
社長の口調が心なしか堅くなった。


「それはどなたなのですか?」そう俺が聞くと、社長は
「君だよ」と言い放った。
「冗談はよして下さい」と口に出そうとしたが、口が動かない。
社長は先ほどの温厚そうな表情とはほど遠い表情をして、俺に語り始めた。
「今君は口が上手く動かなくて焦っているだろう。最後に君に真実を教えてあげよう。
私の祖父は若い頃、脳科学と電子工学が専門の研究者だった。そして研究の末出た結論は「脳より優れた計算機は作ることが出来ない、しかし人間の能力ではそれを引き出せない」という事だった。そこで祖父はもう一つの専門である電子工学を駆使して脳との直接通信装置を発明した。今君が吸っている我が社の空気には微量のナノマシンが添加されていて、このナノマシンは次第に君の脳を支配、いや、機械好みに調整してくれている。そのおかげで君は我が社に居れば君の脳の能力を完全に使用することが出来る。素晴らしいと思わんかね?」
こいつはどこかで頭を打っておかしくなってしまったのでは無いのだろうかと考えたが、口が動かない事や次第に頭の中に浮かび始める複雑な数式が、彼の言っていることが本当なのだろうと思わせてくる。
次第に薄れ行く感情と入れ替わるかのように浮かび出てくる数式。
だんだんこれが素晴らしいことのように思えてきた・・・


翌日、川坂新聞社には夏原の辞表が郵送されていた。
そして新名間野工業の社長室では間野社長が独り言を言っていた。
「今年の採用者はこれで終わりだな。この方法で生身の人間を採用してもう200年か。
いつの世も脳は素晴らしいコンピューターだ。アンドロイドとして羨ましい限りだ・・・」
〜終わり〜

明日卒業式なのにこんなもの書いてて良いのか自分。