忘れもしないあの名前:第4章「駅にて」
久しぶりの
「忘れもしないあの名前」の続きです。
第4章:駅にて
しばらくして軍病院を退院した私は早川の家に挨拶に行った後、
冥王星最大の都市、エルドー・ラーン市の冥王星中央駅へ行った。
ちょうど私が軍病院を退院した頃に連合宇宙軍は5年に1度の長期休暇に入ったので、
この機会に火星の実家に帰るつもりだ。
火星行き特急、マーズエクスプレス54号の指定席券を買い、
列車が来るまでホームで待っていると、反対側のホームに彼女、つまり
秋水さんがいたのだ。
こちらが軽く会釈すると、彼女は探し求めていた物を見つけたような顔をして、
乗り換え通路へと走っていった。
その後すぐに彼女は私の居るホームの階段を駆け下りてきた。
「春瀬さん、もうお元気になられたんですね。」
「どうも、その節は・・・そういえば、なぜ私の名前を?あまり良くは覚えてないのですが、私はまだ名乗っていなかったと思うのですが・・」
「ああ、当然です。」彼女は少し微笑みながら、こう続けた。
「あなたが気を失って軍病院に運ばれたとき、早川先生は焦りながら何度も何度も「春瀬、春瀬!起きろ!」と言っていましたから、それを聞いて私はあなたの名前を知りましたから・・・」
「ああ、そうでしたか。」
なるほど、早川はああ見えて小心者だからな、と思った。
「では改めて自己紹介させていただきます。春瀬道隆と申します。よろしくお願いします。」
「私は秋水優子といいます。こちらこそよろしくお願いします。」
「優子さんですか・・・そういえば、今日はどうしたんですか?」
「今日は気分転換に少し郊外まで行っていました。春瀬さんは?」
「ああ、私ですか。私は軍の長期休暇なので火星の実家に里帰りしようと思いまして。
もう3年も帰ってませんから、たまには顔を見せないと。」
「へぇ〜、春瀬さんって火星出身なんですか。私って天王星生まれで火星には行ったことないんですよ。いいなあ。父がなかなか休暇を取れなかったですから・・あっ、ごめんなさい・・」
「いえいえ、謝らなければいけないのはこちらの方です。あのとき私が中尉を止めてさえいれば・・・」
「本当にお気になさらないで下さい。父の選んだ道ですもの。」
私はあることを思いついた。
「もしよかったら、私と一緒に火星に行きませんか?、まだ席には空きがあるはずだし、
服とかだったらあっちで買えばいい。あ、それとももう旦那さんがいらっしゃいますか?
あなたのお父さんの代わりではないですが・・・」
そういうと、彼女は笑いとうれしさが混じったような顔をしながら、
「それってデートのお誘いですか?私は幸いながらまだ独り身です。お邪魔でなければ是非。」
私はそういう風に聞こえる事に気付いて顔が赤くなった。
「あっ、いやっ、そういう意味じゃなくて・・・切符、買ってきますね。」
そういって私は切符売り場へ行き、切符を買ってきた。
そうこうしていると、列車がホームへと入ってきた。
私と秋川さんは列車に乗り込み、席に座った。
数分後、列車は静かに動き出した・・・・