ショートショート「秋葉のバイト」

皆さんお元気ですか。まあもうじき予備校は2学期が始まるのですが、大学生の皆様はまだまだ夏休みなようで。
それはさておき、9月6日は星新一先生のお誕生日だそうで。
それに便乗しつつ、くだらないネタを思いついたので1つ、落語っぽいショートショートを。


「秋葉のバイト」
 十年ほど前は「世界の電気街、家電を買うなら秋葉原」とよく言ったものですが、今やすっかりメイドカフェやらアキバ系アイドルやらで「萌え」の街になってしまったというような感じがします。
しかしまあ、ハイテク製品、特にパソコンなんかはいまだに秋葉原のパーツショップでパーツを選んで組み立てます、なんて人もいるんじゃないかなんて思うのですが、ああいうお店のバイトって好きな人にはたまらない職業でしょうね。好きな部品に囲まれてお客さんとパーツの話をしていればいいわけですから。



 「えーと、外神田七丁目十五番地、石田ビル、面接会場は三階、担当は東田さん、と」メモ書きを確認して階段を上り突き当たりのドアを軽くノックすると「どうぞ」と一声。
「バイトに応募した田中です!よろしくお願いします」
「あーはいはい、ちょっと待ってね、はい、こちらへどうぞ。どうぞ座って」
「どうもありがとうございます」
「えー田中君、と。秋葉で働くの初めて?・・・ああそう、マジコン売りが二年、そういうことは言わなくていいんじゃないかなぁ、じゃあ特技は?」
「はい!リボンUIが使いこなせます!」
「それだけ?」「けっこう重宝すると思うんですけどダメですかね?」
「うちね、OpenOfficeなんだよ」
「えっ・・・あ!Debianとか使えますよ!」「ごめん、うちのサーバBSDなんだよね」
「そんなぁ・・」
「申し訳ないけどまたの機会に・・・」



 そうしてうなだれて去っていく人を横目に「よろしくお願いします!」と入っていく人が一人。
「えーと、君は・・・佐藤君か。なんでうちに応募してきたの?」
「御社はサーバ関係にも強いと評判で、将来ネットワーク関連で働きたいと思ってるんで、ここで勉強させてもらえないかな、と思って」
「先に言っておくけどうちのサーバBSDだからね?」
「あ、大丈夫ですよ、自宅サーバBSDで構築してます」
「やるなぁ、エディタは?」
「viです」「申し訳ないがお引き取り下さい」
「あっ、えっ、い、いーまっ」「お引き取り下さい!」「し、失礼しましたーっ」



 一目散に駆けていく彼に驚きながらもまたまた一人の青年が入ってくる。
「すいませ」「あ、君、名前は、ああ原田君ね、うちのサーバはBSDで私はEmacs派ですよ」
「なんかやたらに急いでますね」「多分、三人目だから。」
「いきなりあの無口な少女の真似されても・・BSDEmacsもバリバリですよ!」
「ほう!そうかい!じゃあうちのバイトに応募した理由は?」
「私、キーボードにとてもこだわりがあるんですよ。Realforceを使ってるんですよ」

「ほう、HHKB派も居るが私は断然Realforce派だ、すばらしい」
「ここは秋葉原でもキーボードの品揃えがダントツにいいっていう評判じゃないですか。それでここで働いてみたいんです」
「すばらしい!君は採用だ!来月からと言わず明日からメモリ売り場で働いてくれ!」
「えっ!キーボード担当じゃないんですか!?」
「申し訳ない、キーボードうりにはならないんだよ」